「和ジャズの名盤が再発」と聞いても、知らない作品なら、何から聴けばいいのか迷うことがあります。
そんなとき、手掛かりになるのが演奏者の顔ぶれや、アルバムに収められた曲、そして録音の背景です。
2026年11月3日、日本コロムビアの再発プロジェクト「J-DIGS reissues」から、前田憲男トリオ『Alpha Ray』と鈴木弘=富樫雅彦クインテット『Variation』がアナログレコードで再発されます。
どちらも1969年に発売された作品ですが、一方はピアノを中心とした3人編成、もう一方は管楽器を含む5人編成。参加するミュージシャンも、収録曲の組み立ても異なります。
同じ時代の日本で生まれた二枚を入り口に、和ジャズを掘る楽しさを探ってみましょう。
日本の音楽アーカイブから、和ジャズ6作品が再発
J-DIGSは、日本コロムビアが保有する膨大な音楽アーカイブを中心に、作品を掘り起こし、国内外へ紹介するプロジェクトです。
今回の再発では、『Alpha Ray』『Variation』のほか、杉本喜代志、鈴木宏昌、セキトオ・シゲオの作品を含む6タイトルが選ばれました。
再発盤には見開きジャケットが採用され、日本語と英語による新規ライナーノーツも収録されます。音楽を聴くだけでなく、作品の背景を知るための資料が加わるのも、今回の企画の魅力です。
その6作品から『Alpha Ray』と『Variation』を選んだ理由は、どちらも1969年に発表されながら、異なる編成と音楽的な発想を持っているからです。
同じ「和ジャズ」という名前でくくるだけでは見えてこない、それぞれの個性をたどってみます。
『Alpha Ray』|編曲家・前田憲男がピアノで向き合った一枚
前田憲男は、作曲家・編曲家として幅広く活動する一方、ジャズ・ピアニストとしても演奏を続けた音楽家です。
『Alpha Ray』は、そんな前田のピアニストとしての姿に目を向けられる作品。ベースの滝本達郎、ドラムの猪俣猛と組んだピアノ・トリオで、1968年10月3日に録音され、1969年2月10日に発売されました。
収録曲は全7曲。A面には表題曲「Alpha Ray」に続いて、「Bye Bye Blackbird」「Maria」、そして「Fifth Column」が並びます。B面には「Slobber」「Star Eyes」「Infinite」の3曲。
注目したいのは、よく知られた楽曲と前田のオリジナル曲を一枚の中でたどれることです。
日本コロムビアの2014年CD再発時の解説によれば、「Fifth Column」は5拍子を取り入れ、プリペアド・ピアノも用いた楽曲です。
プリペアド・ピアノとは、ピアノの弦などに工夫を加え、通常とは異なる響きを引き出す手法のこと。前田の活動をテレビやビッグバンドの編曲から知っている人にとっても、別の一面に触れる手掛かりになります。
今回の再発案内には、録音時にピアノの内部へ7本のマイクを設置したというエピソードも紹介されています。そこから音質の優劣を決めることはできませんが、演奏だけでなく、音をどのように記録するかにも創意が向けられていたことがうかがえます。
最初に聴くなら表題曲から。そして、A面最後の「Fifth Column」に進んでみるのもよさそうです。曲の拍子や使われている手法を知ってから聴くと、同じピアノ・トリオという編成の中にも、いろいろな発想が隠れていることに気づくきっかけになるでしょう。
こちらの試聴は作品選びの参考としてご利用ください。掲載しているレコードとは、収録内容やバージョンが異なる場合があります。
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『Variation』|鈴木弘と富樫雅彦、五人の演奏が交わる作品
もう一枚の『Variation』は、トロンボーン奏者の鈴木弘とドラマーの富樫雅彦を共同名義に掲げた作品です。
参加しているのは、鈴木弘のトロンボーン、富樫雅彦のドラム、大野雄二のピアノ、鈴木淳のベース、伏見哲夫のトランペット。
録音は1969年1月20日と2月3日に行われ、同年5月10日に発売されました。
鈴木弘は東京キューバン・ボーイズやニューハード、シャープス&フラッツなどでも活動した奏者。富樫雅彦も、モダンジャズからフリージャズまで幅広い活動を展開したドラマーです。
二人が中心となり、さらに大野雄二らを迎えたこのアルバムには、全5曲が収められています。
A面は「Castle Cats」と表題曲「Variation」。B面には「鈴の歌」「Alfie」「Passion」が並びます。
日本コロムビアは、冒頭の「Castle Cats」をジャズ・ロックとフリージャズの要素を行き来する楽曲として紹介しています。また「鈴の歌」では鈴の音と大野雄二のピアノ、「Passion」では各演奏者の切り込むような演奏に注目しています。
この公式解説だけでも、アルバムが一つの表情に収まらない作品であることが伝わってきます。
最初は「Castle Cats」と「鈴の歌」の二曲を手掛かりにしてみるのはどうでしょう。
同じアルバムでも曲によって注目する楽器を変える。トロンボーンやトランペットに耳を向ける曲もあれば、ピアノやドラムを手掛かりにできる曲もあるはずです。
一曲が気に入ったら、そこから参加ミュージシャンの別作品へ進んでみる。そうした聴き方も、レコードを掘る楽しみの一つです。
こちらの試聴は作品選びの参考としてご利用ください。掲載しているレコードとは、収録内容やバージョンが異なる場合があります。
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二枚を聴き比べるなら、まずピアノに注目
二枚を並べてみると、興味深い共通点があります。どちらにもピアノが登場することです。
『Alpha Ray』で演奏しているのは前田憲男。『Variation』では大野雄二がピアノを担当しています。
同じ楽器でも、周囲にいる演奏者は違います。
『Alpha Ray』はピアノ、ベース、ドラムの3人。『Variation』にはさらにトロンボーンとトランペットが加わります。
最初はピアノだけに意識を向けてみる。次にベースやドラムへ、さらに管楽器へと関心を広げる。そうやって聴く対象を変えることで、二枚の違いを自分なりに見つけられるかもしれません。
もちろん、最初から演奏の仕組みを理解する必要はありません。
知っている曲から入ってもいいし、気になる演奏者の名前から選んでもいい。和ジャズという大きなジャンルも、二枚の具体的な作品を知ることで、少しずつ身近になっていきます。
2026年再発盤を選ぶときに
今回紹介した2作品は、いずれも2026年11月3日発売予定の1枚組LPです。
『Alpha Ray』は品番 COJY-9600、『Variation』は COJY-9601。後者はクリアヴァイナル仕様です。
どちらも今回のJ-DIGS再発企画に含まれますが、過去に発売されたCDや別のLPとは区別して確認したいところです。
Prime Recordsでは、作品の内容だけでなく、発売日や品番、盤の仕様も整理して掲載しています。
再発をきっかけに、まずは気になる一枚を。そして、そこで出会った演奏者から次のレコードへ。
1969年の二枚を入口に、まだ知らなかった音楽を掘り進めてみませんか。

